引継ぎの庭

 新築当初から植えてあるシンボルツリーの伐採、そして新しく植樹すること。
それが今回頂いた主なお仕事です。連絡を頂きながらもすでに(シンボルツリー…アオダモとかモミジがいいかなあ)と自分の中で勝手ながらに想像していたわけですが、ご主人の口から出た言葉が意外でした。
「また同じ木を植えたいんです。あの丸い葉っぱと香りが気にいってしまって。」

 現場にいってお話を伺うと、20年ほど前の新築時に植えたカツラの木を切って欲しいとのことでした。ここ最近は樹勢が衰え、芽吹きもなんだか弱い状態が続いていたそうです。
以前造園業を行っている方に見てもらった時には、カミキリムシの食害にあっていること、そしてここ数年のうちには枯れてしまうことを教えてもらったそうです。

 恥ずかしながら自分はカツラの木を名前くらいしか知らなかったんですが、春先には可愛らしい葉っぱがつくこと、秋口にはいい香りがすることを教えてもらいました。他にも、ある時は小鳥の拠り所になったり、住宅の屋根ほどの高さにまで大きくなった時はご夫婦で剪定していたこともあるそうです。
新築時からの約20年、この土地の風景として根ざしてきたシンボルツリーを切ることに決めたお客様ですが、その思いを残念そうに、申し訳なさそうに喋るお客様の声色が印象的でした。

 現場で目についたものが他にもう1つ。
住宅の前を飾る多くの多年生の植物(鉢植え)。センダンの木やムクゲ、ネムの木など、個性的な樹姿の植物がたくさんあります。お庭のスペースを作り変える際に、地植えとして使わせて頂けたらより素敵な空間を作ることができるんではないかなあ…と。その旨お客様にお伝えし、使わせて頂きました。
 
 新しく植える予定のカツラの木は、高さがある程度になっていますが、下枝の数がやや物足りない印象です。高木を植える際に下枝の数が少なく、人の視線の高さの印象が物足りなくなることはよくあります。今回はそこの高さを、センダンの木やムクゲを活かして植えています。オシャレは足元からといいますが、ほんとにそれは庭木を植える際にもいえることだなあと思っている最近です。

 新しい風景とはなりましたが、その中にも、お客様の大切になさってきたものが詰まったお庭です。お客様の「これから」の中で「これまで」が、いい時間を過ごすきっかけとして、さりげなく、佇んでいけばいいなと思います。